Sinheikemonogatari 2 Matukazedayori
Matukazedayori松風便り
新院は思い出された。御運命のかくなる前に、都の柳ノ水の御所で、麻鳥に約された一言を――である。(月のよい晩に、おまえの横笛を聞いてみたいね)麻鳥はその約束を、いつかと、誓っていたに違いない。海をこえ、危険を冒、これまで来るには、どれほど辛苦に耐えて来たこどだろう。……かれは、言葉をもっていうかわりに、そこで、横笛を吹いた。笛は、心から心へ、言葉以上なものを語りかける。細やかな感情は持たない番の田舎武者たちすら、なぜということもなく、みな涙を垂れた。――屋の内仄暗がりに寄り合うていた佐の局や女房たちはいうもおろかである。なおさら、新院の御感動はいうまでもない。(p229~230)
絶望の淵に立たされた人たちの心を麻鳥の笛は震えさせた。まさに、音楽の力は言葉よりもすごい。
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